サヌキノススメ第3回 その5『菓子木型と木型工房市原について』
■菓子木型とは
日本の伝統的な和菓子は茶道の文化とともに発展してきました。
味だけでなく見た目の美しさも大切な和菓子を形づくるのに、型の存在は欠かせませんが、
和菓子を見たときや買うときに木型にまで想いをはせることはほとんど無いのではないでしょうか。
市原さんの木型のショールームには、市原さん作の木型以外に全国各地から送られて来た木型も展示されています。
閉店してしまったお菓子屋さんの木型を捨てるのは忍びないと、市原さんに贈られるなどしたものです。
ですが、見せていただいた木型を見る限り、銘は残されていませんでした。
菓子木型は和菓子の裏方だと市原さん自身も仰っていましたが、堅い木にひとつひとつ手彫りされた木型は全て1点もの。
1つ作るのに時間もかかります。
菓子木型は多くの人を楽しませる和菓子の裏方として存在していますが、木型もまた職人さんの手によって1つ1つ手作りされているのです。
■木型工房市原のなりたち
もともと市原さんの家では、木型や金型の卸(おろし)をしていました。
そこで会社に出入りしていた職人さんの教えを受け、 まずは木型の修理をするところから全てがはじまります。
それからは独学で勉強を続け、1975年に「木型工房市原」を起ち上げます。
約24年後の1999年には香川県の伝統工芸品に菓子木型が指定され、市原さん自身も県の伝統工芸士に認定されました。
2004年には厚生労働大臣から卓越した技能を持った人に贈られる「現代の名工」の表彰を、
2006年には長い年月に仕事に励み、人々の模範になっているとして黄綬褒章を拝受しました。
現代の名工の表彰概要には
「生菓子の丸い立体感や焼き菓子の独特の焼き目などの独創的な彫り方を考案し、菓子木型業界の第一人者と言われている。また、全国三千軒余の和菓子店を顧客とし、裏方(陰の匠)として、菓子文化の発展に寄与している」(厚生労働省HPより引用)
と書かれており、
市原さんが菓子木型を通して努力をした結果がこうした形に繋がっているといえます。
■市原さんの取り組み
香川の県産品や工芸品について、授業で学んでいる小学校がいくつかあります。
とある学校の活動のなかには菓子木型という選択肢もあり、1年を通して菓子木型について調べているそうです。
そちらの学校に出向いたり、逆に工房に招いたりと、子どもたちへ工芸品の伝承活動を行っています。
また、多くのメディアや教育機関などからの取材を積極的に受ける事によって、日本文化のよさを発信し続けています。
■木型に使われる木
四国の樹齢100年山桜を使って、木型はつくられています。
桜はゆっくりと成長していくので、水分などの通り道・道管(どうかん)がきめ細かく、分散しています。
そうすると型からお菓子がきれいに抜け、そのうえ桜は丈夫なため型を長い間使うことができるとのこと。
ただ、山桜の木はすぐには使わず、2年間ほどしっかりと乾燥させてから使います。
木に余計な水分が残っていると、のちのち木型(2枚のうち、とくに薄い上板のほう)に歪みが出る可能性があるためです。
■木型の作り方
木型の上の板(薄いほう)と下の板の同じ位置に下絵を描きます。
上の板は輪郭をくりぬき、下の板は形を掘っていきます。
盛り上がる部分は深く彫り、浮き出したい部分は残したり浅く掘ります。
彫りの強弱でより立体的な和三盆やお菓子が出来上がります。
上の板と下の板とを重ねておく丸い棒状の部分は竹です。
こちらも市原さんが用意し、ちょうどいい長さに切って使います。
■市原さんの想い
木型のもとになる山桜は丈夫な素材ですが、硬い木です。
力がいるうえ、彫るのは細かい作業でもあるため、毎日体力づくりを欠かさずに励み続ける市原さん。
今の時代、伝統工芸士も外に営業をかけていき、自分のつくりだす品物について知って貰わなければ衰退していく、とおっしゃっています。
お客様からの難しい注文にもnoとは言わずにyesと答え、作業に工夫をして、生産性をあげることでお客様の期待に応える。
「やる気さえあれば道は開ける」を実践しながら、これからも木型をつくり続けていきます。
ハスイ